スモークチーズという縁起物
火をくぐった食べものの話
正月になると、世の中にはたくさんの縁起物が並ぶ。
赤いもの、丸いもの、甘いもの。
それらはどれも、新しい年を迎えるための記号だ。
でも、火を通った縁起物は、意外と少ない。
火は、強い。
同時に、危うい。
だから人は昔から、火を「扱うもの」としてではなく、「向き合うもの」として扱ってきた。
直接焼くのではなく、
煮るのでもなく、
揚げるのでもなく、
煙だけをまとわせる。
スモークという行為は、火を抑え、時間を待ち、変化を急がせない。
それはどこか、日本人が節目に選んできた態度そのものだと思う。
チーズは、もともと時間の食べものだ。
乳という壊れやすいものを、微生物とともに預け、
腐敗と紙一重のところで、信じて待つ。
そこに、煙を加える。
火の余韻だけを借りて、
味を変え、
香りを残し、
時間をもう一度延ばす。
発酵と燻製。
どちらも、「急がない」という一点で共通している。
だからこのスモークチーズは、
何かを“変える”ための食べものではない。
変わっていく時間を、穏やかに通過するための食べものだ。
日本では、節目に火を使ってきた。
正月の松を焚くこと。
厄年に火をくぐること。
山に入る前に火を焚くこと。
火は、世界を切り替えるための境界だった。
煙をくぐったものは、
少しだけ別の位相へ移る。
スモークチーズも、同じだ。
煙をくぐり、
元のチーズとは少し違う存在になる。
それを口にするということは、
火の余韻を、体の中に通すということでもある。
HIMENOYU MOTHER.の母体ミツマル燻製所が何故この施設を作ったか?
火があり、
湯があり、
山があり、
静けさがある。
ここは、何かを急かす場所ではない。
この場所で煙をまとった食べものは、
自然と「節目の食べもの」になる。
正月の縁起物には、二つの役割がある。
ひとつは、
迎える縁起物。
元旦に、年を迎えるためのもの。
もうひとつは、
動かす縁起物。
松の内を過ぎ、立春へ向かう時間の中で、
日常をもう一度動かし始めるためのもの。
このスモークチーズは、明らかに後者だ。
新年を祝うためではなく、
新しい年をどう続けていくかを考え始めた頃に、
火をくぐったものを口にする。
正月の高揚が落ち着き、
時間が再び流れ始めたとき。
その節目に食べるための、
動かす縁起物として、スモークチーズを選ぶ方も増えている。
2026年は1月2日より営業しております。
静岡県伊豆市姫之湯248-1
9:00~17:00
Ritual Food
In Japan, such things are often called engimono.
There is no exact English equivalent.
The closest idea might be ritual food—
something not meant to bring luck,
but to quietly mark a moment of transition.